コラム

医療における100年社会、ポジティブヘルスとつながり

※ この記事は、第5回人生100年社会デザインフォーラム(医師、宇沢国際学館代表取締役 占部まり氏(当財団理事)と財団代表理事 牧野篤氏との座談会)から抜粋したものです。

~初めに~

占部様より、アメリカのとある病院で75歳以上の急性心筋梗塞で入院した患者さんの生存率を見たものから、一人もお見舞いに来ない患者さんは観察期間に7割の方がなくなり、一人お見舞いに来た場合に43%、二人以上だと26%、4人に1人まで下がってきたことから、健康に対して一番のインパクトを持っているのが人とのつながりという話がありました。

今から大事なのは、高齢者が働ける場所、社会とつながれる場所を作っていくことが、社会が楽しくなる秘訣なのではないかと思っています。

そこで行われているのが社会的処方、簡単にいうと人と人のつながりを処方する制度です。

これはイギリスで医療システムに取り込まれることになりました。不思議なことに、この社会的処方が充実してくると救急搬送の数が減ります、さらに救急搬送された際の1回の医療費も下がってくる、そういった不思議な現象が起きてきます。

社会的処方とは、簡単に言いますと例えばご主人を亡くしたご婦人が「寂しくて夜眠れません。」と病院に来たときに、「じゃあこの薬を飲んで寝てください」ということは簡単なのですが、彼女が求めているのはそういったことではありません。話を聞いてくれる人でしょうし、何か他のことに興味が持てるようなそういった環境に違いないのです。

社会的処方ではその地域のリソースを把握していて、例えばその人が花を育てることが好きであれば、地域の花のボランティアグループを紹介する、編み物、コーラスを紹介する、そういったものも医療の中の1つになります。

そうしますと、薬は要りませんので医療費はかかりません。そしてその人は人とのつながりができて、また新たな楽しみを見つけて前に進んでいく力を得ることができます。

更に進みまして、こういったことを踏まえて今オランダで新しい健康の考え方というのが出てきています。ポジティブヘルスです。

今までの健康というのは、病気がない状態、精神的に満たされている状態です。しかし、例えばコンタクトをしている私は近視という病気、病名がつきますので健康ではありません。血圧が高い方も血圧の薬を飲んでいたら健康ではありません。そうすると、ほとんど健康な人がいない社会になってきます。ですが、ポジティブヘルスの健康は、困難な状況に立ち向かう能力です。

例えばうつの患者さんがいらっしゃいます。今までの健康ですと、病院に行く前は病名がついていませんから健康です。ただしポジティブヘルスでは立ち向かう能力が欠けておりますので健康ではありません。

そして診断治療が始まって元気になります。そうすると、今までの健康観で言うと病名がついているので健康ではなくなります。一方でポジティブヘルスの場合には能力が戻ってきたので健康になるというふうな考え方になりますので、より納得感の高い健康感になるのではないかなと思っています。

具体的には、この6つの項目に対して自分でプロットをしてみます。

これは、六角形が大きければ大きいほど良いということでも、他人が評価するものではありません。自分自身が自分の状況を把握して、今後どうしていこうか考えるきっかけにするものです。オランダの家庭医でこちらを導入した方は、不用意な受診をする患者さんが減ったというデータも出されています。自分自身で自分の健康を管理できるということで、さまざまな状況を自分の手に取り戻すことができるのです。

かつては人間の死因というのは感染症がほとんどでした。今コロナで少しぐらついてはいるものの、現代人の死因は基本的にはがんであったり、老いであったりと様々な複合条件によるものが最終的な原因になっています。

感染症が主体であった際は、病院に早く来て適正な診断を受けて、適正な治療を早く始めれば病気ではなくなり健康になれたのですが、そういう時代ではなくなってきているのです。そのため、新しい健康観というものをみんなでシェアしていく、そして健康というものを他人任せにせず、自分で管理していくということが必要になっていきます。

例えばストレスと生産性といわれるもの、ストレス・刺激がないと何も行動を起こしませんので生産性は上がってきません、これはやりがいとでもいいましょうか。何かやりましょうという刺激があり、やりがいを求めてやっていくと、人の心の中に満足感が出てきます。しかし、そのストレスがある臨界点を超えてしまうと、満足感は急に下がってしまう。

そこにポジティブヘルスを導入することによって自分が臨界点に来ている、もしくは臨界点を超えてしまったということが自覚できるようになり、そのベストパフォーマンスができる場所に戻れる。そういった作用があるのではないかと思っています。

よって、①自己管理能力が上がり、②危機管理が上手くなる。そして③生産性、やりがい充実感が上がってくる。そういった新しい健康観だと思っています。

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