インタビューお知らせ

トークシリーズ:「注目のソーシャルイノベーターたち」vol.3 株式会社Helte

人生100年社会デザイン財団運営委員長 井上昌之

このシリーズでは、当財団に参加しているソーシャルイノベーターたちをインタビュー形式で紹介します。第3回は株式会社Helteです。財団の前身の “人生100年社会インパクト・ハブ”(東大牧野篤教授研究室で開催)時代からのお付き合いで、当時スタートアップとして起業したばかりのHelteでしたが、周到なビジネスプランのもと、ぐんぐんと事業を伸ばしています。代表取締役社長の後藤学さんにお話を伺いました。

ーー後藤さんとはかれこれ6年ほどのお付き合いになりますね。当初後藤さんが立ち上げたSail(*1)という事業についてまずはお話しください。

後藤)日本語を学ぶ・日本のファンの外国人と日本の人をオンラインで結ぶサービスです。ちなみに私たちのサービス内では外国人の方々を世界の人と呼んでおり、日本のユーザー層はシニア層が多いという特徴があります。世界の人は生の日本語を話したい。日本のシニアは何か自分が貢献できることをやりたい。こうした両者をオンラインで結びます。すべて日本語で会話します。シニアにとっては母語で世界の人と話ができるし、さまざまな国の人と話ができるのでその文化や国情なども教えてもらえる。世界の人はいろいろな地方やいろいろな職業を経験した日本人の“先輩”から生きた日本語を学べるし、文化や慣習なども教えてもらえるというメリットがあります。

ーー確か当初は世界ユーザーの登録数が3,000人ぐらいだったかと記憶しています。それが現在はどのくらいに増えたのでしょう?またその国籍や年齢層、職業経験有無などについても教えてください。

後藤)現在の登録数は20,000人ほどになりました。そして国籍は当初は東南アジアが多かったのですが、今は約150か国におよび世界中に広がっています。語学生といっても職業経験や高いスキルを持っている方もいます。優秀な世界ユーザーを確保するために海外12大学、18の送り出し機関、3つの日本語学校と提携しています。一方、日本のシニアの登録者数も約8,000人となり、総会話数もこの3年ほどで飛躍的に伸びて、年間16万会話に達しています。

ーーSailが取り上げられたテレビなどの映像を拝見しますと、シニアのほうはこのコミュ ニケーションを通じてどんどん元気になっていきますね。自分が話すことで、何か相手のためになっている、役立っているという気持ちになるようです。そうすると俄然モチベーションが上がってきて、相手の国について事前に図書館に行って予習したり、事後にまた地球儀や地図帳を見て復習したり。また、自分が何を話そうかと考える。地元の文化なのか、仕事のことなのか、あれこれと考える。そうすると知らず知らずのうちに元気になってくる。

この間拝見した映像では、シニアがお正月の文化の話でおせち料理を説明しようとして、画面に映しながら話をしている。色とりどりの色彩の組み合わせと食材の組み合わせが面白いと、今度は相手の中国の学生さんが中国の似たような正月の飾りを紹介する。健康や生きがいはまさに人と人のコミュニケーションに拠っているんだなと感じます。

このSailのコミュニケーション・サービスは今、地方自治体へ導入されているようですね。

後藤)はい。おけがさまで自治体への導入は広がっています。神奈川県、神戸市、藤沢市、豊田市、奈良市など現在13自治体と連携しています。導入の効果としては、たとえば新型コロナによって外出機会が減った高齢者に利用してもらい孤立を防ぎ、コミュニケーションの機会を増やすことによって健康を保つことに役立ちます。食、運動、コミュニケーションは健康の3つの大きな要素だと言われますが、そのうちコミュニケーションと健康の相関関係がもっとも強いというデータがたくさんあります。一方、世界ユーザーのほうも、日本の多様な文化やことばに触れる機会が増えるので、まさに生きた学びの場となっています。

ーーさて、ここに来て、後藤さんはまた新たな事業展開を進めていますね。一つは、日本での就職を希望する世界ユーザーとそうした人材を採用したい企業とのマッチングと外国人人材の就職支援サービスですね。ネット上でも、「世話カツ」(*2)というサイトを立ち上げています。単なる就職サービスではなく、それ以上ということでしょうか。

後藤)多くの外国人の方々が日本語の修得だけでなく、日本で働きたいという希望を持っています。先ほどもお話したように、中にはすでに職業経験があったり高いスキルを持っている方もいて、ダイバーシティの観点からも人事・人材戦略からもこうした人材を求めている企業は多い。この需要と供給をマッチングさせるサービスを展開しようと考え、ローンチをして、すでに成約も出ています。ふつうはいわゆる履歴書や志願動機を提出するわけですが、我々のサービスではSailの会話の様子を動画で提供できるのが大きな利点です。書類だけでは伝わらない、また面接だけでもわからない本人の側面や人間性が生き生きと伝わってくるのでとても評価されています。 また外国人労働者の課題は複雑で、職場環境やコミュニティになかなかうまく入っていけないケースも多く、文化や習慣を理解するのに時間がかかります。Sailは日本のシニアとの会話からそのあたりの事前の予習にもなりますし、Sailで知り合ったシニアが兄貴分というか先輩というか、里親的にサポートをしてくれる仕組みも作っていますし、日本に来てからの支援にも力を入れていいます。

ーー新しい事業展開でもう一つ、EPS社との資本提携・業務提携を発表されました。Sailでの会話画面から認知症の一つ手前のMCIの状況が分かるというもの。非常に興味深く思います。少しご説明ください。

後藤)業務・資本提携先のEPS社との連携です(*3)。Sailを通じて取得された会話動画から、ユーザーの同意を得た上で会話音声の周波数や会話パターンをAI技術で解析します。認知症の兆候が見られるMCIの状態を検知する仕組みとなります。EPS社の連携先企業が30秒の動画があれば対象者のMCIを検知できる技術を保有しており、この機能をSailへ組み込み、Sailでの交流の裏側でヘルスケアのサービスを走らせる計画です。将来的にはこのデータを活用して自治体への展開、取得データを製薬会社、保険会社へ販売・連携をし、新たなビジネスモデルを構築する計画です。

ーー当財団では、「ライフサポートプラットフォーム」の在り方や構築について議論を重ねていて、人生100年社会においては、縦横を網羅して人がより良く生きていくことをサポートする概念と仕組みが必要だと考えています。後藤さんのこのサービスはまさにこのプラットフォーム構想とリンクすると期待しています。認知症はこれからの大きな社会課題ですが、自分のことに照らしてみても、自分が認知症だと“認知する”のもちょっと怖い。それがMCIレベルで予兆を知らせてもらえることで、知ることで何か少し安心するというか、知らないで得体の知れない怖さを感じているよりも、知って向き合えるほうがいいのではないかと思います。もちろん、早めに気づくことで、家族などのサポートや将来の計画、たとえば家で過ごしたいのか、施設に入るのか、などについても時間をかけて考えることもできるし、また自分に合った施設や方法を探す時間もできる。こうした施設を探すこと自体も本当に時間と労力がかかるし、資金との折り合いも考えなかければならないですしね。いずれにしても、今後の展開を楽しみにしています。

参考)HelteさんHP 株式会社Helte

 (*1)Sail Sail (セイル) – しゃべっちゃえ、世界と!日本語で。 (helte.jp)

(*2)世話カツ (helte.jp)

(*3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC076ZL0X01C22A0000000/